
メビウス回顧展『MOEBIUS TRANSE-FORME』
メビウス、別名ジャン・ジローは、映画『フィフスエレメント』のセットデザインや『アルザック』等のコミック作品で、谷口ジローや大友克洋など、大御所アーティストやデザイナーに大きな影響を与えたことでも知られるグラフィック・アート界の巨匠。並大抵の想像力では追いつかない、ましては描くことは到底不可能と思われる世界を悠々とあらゆるスタイルで描き、祖国フランスのみでなく、世界中のファンを魅了してきた。60年代から現在に至るまで、50年という長い歳月をまたぎ精力的に創作活動を続けるメビウス。その貴重な回顧展『MOEBIUS TRANSE-FORME』が、パリのカルチエ財団現代美術館で開催された。2フロアに渡り、コミックのオリジナル画からアクリル画、3Dアニメーション作品等、これまでの莫大な作品群から「メタモーフォシス(変形)」という切り口で厳選された作品が展示されていた。今回はメビウスに大きな影響を受けた数多くのアーティストの一人でもある、ロンドン在住のウィル・スウィーニーにアーティストとして、また一ファンとして個人的な視点から展覧会の感想とメビウスの作品について語ってもらった。
※今回の東北地方太平洋沖地震におけるウィル氏による日本へのメッセージも併せて掲載します。
Text:寺島彩子
展覧会コメント:ウィル・スウィーニー
協力:カルチエ財団現代美術館

展示風景 Photo : Olivier Ouadah

40 Days Dans Le Desert B © Mœbius
メビウスの作品を初めてじっくりと見たのは、友達の誕生日プレゼントのために購入した本『40 Days Dans Le Desert B (B砂漠の40日間)』だ。この作品もその本から。メビウスの作品は、色なしの線画もあればカラフルなアクリル画もあり、ドローイングのスタイルもさまざま。個人的には彼の白黒の絵が好きなんだ。コミック本はよく線画が先に出版されて、後で色づけされるものが多いから、白黒の状態ですでに自分の頭の中でできあがっている世界観が、色が入ることで崩されてしまう場合がある。それにメビウスの線のタッチやドローイングのオリジナリティが一番効果的に見ることができるのは、白黒の絵だと思う。
今回の展覧会で一番印象的だったのは、彼のオリジナルのドローイングやスケッチ画が見られたこと。ペインティングなどよりも感動した。僕だけじゃなくて、アーティストの制作過程や絵のタッチがより感じ取れる作品に興味を持つ人はたくさんいると思う。展覧会の開催中に毎日描き上げて展示されて行く「火星人シリーズ」も素晴らしく、かなりインスパイアされた。
メビウスの作品群をひとつの統一感でまとめるのは難しい。グラフィックやビジュアル的に見ても色々なカラーパレットを使っているし、これと言ったひとつのスタイルに絞れない。それもあってモノクロの絵はより統一感があって好きなのかもしれない。でも、もちろんカラーでも素晴らしい作品はたくさんある。特に光の描き方とオープンスペースのタッチがすごく絶妙。また、砂漠の絵も素晴らしい。

Mœbius, La Chasse au Major, 2009 © Mœbius

展示風景 Photo : Olivier Ouadah
『Le Garage hermétique』も僕のお気に入りのコミック。メビウスの作品で最も有名なもののひとつだし、想像力に富んだ作品だと思う。雑誌『ヘビーメタル』に、たしか月一で掲載していた。毎回数ページ程度の描き下ろしで、特にシリーズとして物語性もない。自然な流れにまかせて描いていた。連載が終わった後にすべてまとめて本として発売された。オリジナリティがあって、絵のスタイルも色々と取り入れていて遊び心があり、彼の作品の中で一番興味深い。
この本からのオリジナル作品も展示されていたけれど、もっともっと見たかった。この時代(70年代)の彼の作品が一番好きだからね。メビウスの作品にたびたび登場するキャラクター「グルバート少佐」もこのコミックの主要人物の一人。遊び心があるのにコミックっぽすぎないから良いと思う。

Mœbius, preparatory drawing for Arzach, 1975 © Mœbius Production
この上の作品はスゴく好き。彼が創造したキャラクターの集合写真みたいな絵なんだけど、グルバート少佐もいれば、作家自身もちゃっかり入ってる。スターウォーズの「キャンティーナ(酒場)」を思い出す。彼のキャラクターデザインの素晴らしさがひしひしと伝わってくる作品。特にこの生き物たちの顔! この創造性はスゴいと思う。どのキャラクターも人間っぽさとエイリアンっぽさの両方を兼ね備えている。それができるメビウスは天才的としか言いようがない。

éclosion 1975 © Mœbius
形而上学的でサイケデリックなスタイルの絵が好きだね。ただ単にアブストラクトな絵が好きなのではなくて、サイケデリックな世界観を物語性を通じてしっかりと作り出す、その想像力がスゴいと思う。『Le Garage hermétique』ではスゴくサイケデリックな背景や環境の中にそれを色付ける物語がついてくる。特に意味のあるストーリーというわけではないんだけど、その世界観の完成度を高めるという意味でとても重要な役目を果たしている。「動き」も加わることにより、空間感覚が伝わってきて、サイケデリックな空間に惹き付けられるんだ。これができるアーティストはあまりいない。ただ単に奇妙な世界だとかサイケデリックな絵が描ける人はたくさんいる。メビウスはその世界が本当に存在していると錯覚させるような、パワフルでリアルな世界観を描くことができる。
最新の3Dアニメーション作品も完成度の高さに驚いた。人工的なタッチが面白いと思ったと同時に、メビウスらしさに欠けてる気もした。僕が大好きなアニメーション傑作『時の支配者』も展覧会になかったけれど、なぜなのか、スゴく不思議だ。もしかしたら昔の作品はそこまで見せたくなかったのかもしれない。現在進行形として過去の作品と今の作品を混合させたいという気持ちはわかる。

Preparatory image from the 3-D animated film La Planète encore, 2010 (detail)
© AngeleFine Productions and Mœbius Productions. 3-D image : BUF

Mœbius, preparatory drawing for Arzach, 1995 © Mœbius Production
Arzakのペインティングも好き。でも、アクリル画は白黒の絵に比べて印象は弱いと思う。ミステリアスでシュールな世界観はモノクロの方がずっと効果的だ。全体的には素晴らしい展覧会だったと思うけれど、自分がキュレーションをできるとしたら、かなり違う展覧会になっていたと思う。彼がホドロフスキーとコラボレーションした『Dune』の作品があまり展示されていなかったし、映画『エイリアン』の初期のデザインにも関わっていたと聞いたけれど、そういった作品もなかった。彼のコミック以外の作品もすごく興味深いから、もっと見たかった。でも、フランスのファンは僕とは違う見方や好みをしているだろうし、求められているものも全く違うので、展覧会があのようになったのは理解できなくもない。
例えば『ブルーベリー』なんかは僕はあまり興味がないけど、フランスではスゴく人気だったのを知っているし。色々な作品で違ったファンを惹き付けるのもメビウスの才能のひとつだからね。
※今回の東北地方太平洋沖地震に際して、ウィル・スウィーニー氏から日本に向けたメッセージを頂きました。「日本はいろいろな意味で僕にとって大切な国だし、災害の様子を遠方から見ている僕らにとってもすごくショックな出来事でした。今日本で大変な思いをしている人々のことを思うと心が痛むし、少しでも支えになりたいと思っています。ただ、日本人の強さと勇気でこの苦難を必ず乗り越えられるという確信を持っています。何もかも失ってしまった人々や災害地の復興に協力したいという思いから、ロンドンでチャリティイベントを計画中です。マイティー・ラスタ・サムライは必ずや再起する!」
Exhibition Information
『Moebius Transe-Forme』
会期 : 2010年10月12日(火)〜2011年3月13日(日)
場所 : カルチエ財団現代美術館











