
ヘンリー・ダーガー展 〜アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く「非現実の王国で」
誰に見せることもなく半世紀以上、「非現実の王国で」という物語を書き続け、死後にその作品が人々の目に触れられるようになり、アウトサイダー・アートの代表的な作家として評価されるようになったヘンリー・ダーガー。子供奴隷制を持つ軍事国家と「アビエニア」と呼ばれる国家など、キリスト教徒の連合軍との戦争が描かれた、300点以上に及ぶ膨大な挿絵を含む15冊1万5145ページから成る彼の作品は、世間に衝撃を与えた。
家族も友人もなく、周囲の人間ともコミュニケーションを取らず天涯孤独に生きてきたダーガーは、未だにその存在が多くの謎に包まれている。彼はなぜ壮大な物語を書き始めたのか、そして、何のために—。そんなヘンリー・ダーガーの実人生と創作の謎に迫り、その物語を解き明かすことを試みた大型企画展『ヘンリー・ダーガー展 〜アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く「非現実の王国で」』が、ラフォーレミュージアム原宿にて開催されている。今回、彼に衝撃を受けたイラストレーター・ファンタジスタ歌磨呂氏に、アーティストとして、また、一ファンとしての個人的な視点から、展覧会の感想とヘンリー・ダーガーの作品について話してもらった。
Text:小島直子
展覧会コメント:ファンタジスタ歌磨呂
協力:ラフォーレミュージアム原宿
今回このような機会をいただき誠にありがとうございます。正直そこまで詳しくないので、ヘンリー・ダーガー・ファンの方々には恐縮ですが、僕のヘンリー・ダーガーとのいきさつからお話しできればと思います。
ヘンリー・ダーガー 突然の出会い
2006年の春、特に予定を立てず気の向くままに一人で数カ月間旅をしました。ヨーロッパを中心にグルグルといろいろなミュージアムへ行ったり、デザイン事務所に作品を見せに行ったり、いろいろ動いてました。道中、パリで親しくなった人から、スイスのローザンヌという街に奇天烈で面白い作品ばかりを集めたミュージアムがあると聞き、どうしても見たくなったのでそのミュージアムへ行きました。
そこは、アール・ブリュット・コレクション(Collection de l’art brut)というミュージアムで、異様な作品ばかりが展示されていました。貝殻でコラージュしたお面が壁中に並んでいたり、謎の人形や絵が所狭しと展示されていました。

アール・ブリュット・コレクション
これらの奇妙な作品群は、「アーリュ・ブリュット」(生の芸術、アウターサイダー・アートとも言われる)と呼ばれており、このミュージアムは、ジャン・デュビュッフェというフランスの画家の蒐集したコレクションをもとにつくられたそうです。凄まじい世界観の作品群をずっと見ていたら、だんだんと胸が苦しいような何とも言えない不思議な気持ちになっていきました。そして、極めつけが、2階スペース(だったと記憶してます。)に展示されていたヘンリー・ダーガーの絵画でした。「…コ、コレは…!?」と、一瞬でその世界観に心を奪われました。見てはいけないような、でものぞきたくなるような、何とも言えない世界観。美しい色彩、変な(?)子供たち、繊細なタッチの線、その一つ一つに何か特別な想いが宿っているような…。ちょっと悲しげなんだけど、花とかデカいし、POPで明るい。女の子なのか男の子なのかわからない子供達が同じポーズで連続して描かれていたりと謎だらけでした。今まで味わった事のない、「不思議系・POP感」を感じました。
そこで見た絵は、彼が生涯、誰にも言うことなく何十年も書き続けてきた小説の挿絵だったということをその晩、インターネットで知りました。その瞬間、ぞわわーっと鳥肌が立ったのを覚えています。(ハイジャンプ) その時、挿絵なのにデカすぎじゃないか? とも思ったのですが、何か理由でもあったのでしょうか…。
ヘンリー・ダーガー展について

ヘンリー・ダーガー展 展示風景
今回、友人のTwitterのつぶやきで再び日本で展示されると聞き、楽しみにしていました。まず、会場についてビックリしたのがメチャクチャ多い作品数。アール・ブリュット・コレクション以来のヘンリー・ダーガーだったので、僕の中でのイメージが一人歩きをしていたせいか、かなり当時と違う印象でした。記憶の中では、もっともっとドでかいイメージでした。おそらく、そのミュージアムで、その他の奇天烈な作品を見すぎていたせいで、意識が朦朧としていたのだと思います。
人物描写も妙にリアルで、画力すごいなぁと普通に感動しました。しかもドPOP(失礼な言い方でしたらすみません)な世界観でかなりカワイイ。絵画より、イラストレーションに近い質感が童話の絵本のような夢心地を与えてくれる感じ。彼の徹底した世界観の設定を見ると、彼自身相当なオタク気質だったのではないでしょうか。
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
絵巻物のような横長の絵と、トレーシングによって書かれてる少女達が、似ているんだけど違うタッチで連続的に書かれている女の子達が気持ちよくて、なんというか、順を追って見ているうちに、催眠効果に近い感じというか、夢に見ているような感じというか、ずっと見ているとちょっとまどろんでしまう感覚がありました。擬似的な既視感の連続がそうさせるのでしょうか。夜の高速道路を車で運転している時のような心地よさ。
トレーシングされた同じポーズの女の子がたくさんの絵で使われていたのも、擬似的な既視感を助長させて、僕を夢の世界に連れて行ってくれました。
「あー、ココにも!」という感じでいろんなところに同じポーズの少女が描かれていてその発見を無意識のうちに楽しんでいたりしました。
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
Collection of Bob Roth (C)Kiyoko Lerner,2011
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
この後ろ姿のトレースの元ネタとかも見てみたいですね。
常識を無視したスケール感や、遠近法にとらわれていない独特の絵の世界が、幻想的な雰囲気を演出しているように感じました。北斗の拳やエヴァンゲリオンみたいに、スケール感を感情によって変化させている(?)といったらいいのか、お花畑は少女達より大きかったり、石像と同じくらい少女が大きかったり、遠くにいるのか近くにいるのかわからなくなったり。普通にとっつきやすい絵の世界観なのに、そういった不「不思議系・POP感」が満載なので(女の子にオ○ン○ンあったり笑)かなりモヤ~っとした気持ちになり、どっぷりその世界に浸かってしまいました。
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
幸せな空気というか、天国っぽいイメージで好きな作品です。物語の中では終戦後の挿絵として、現実にはダーガーの晩年に作られたとか。
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011
男性器のついた女の子たち。ダーガー自身が男と女の差がわからなかったという説がある。
貴重なヘンリー・ダーガーの部屋の写真、使用していた画材道具などを展示。実はここにトレースの元ネタなどをまとめた束が展示されているのですが、中を開くことが許されていないとのこと。
何十年もの間、誰にも話されることなくひっそりと生きて来た世界の威力はもの凄かったです。僕はアートとか、そこまで詳しくはありませんが、おそらくどんな人が見ても、何か余韻というか、見終わった後に心に残るものがあると思います。秘密の世界に触れてしまったようなドキドキ感が、今も思い出すだけでキラキラとフラッシュバックします。これほどたくさんのダーガー作品を見ることは、今まで、そしてこれからもないのではないでしょうか。絶対絶対絶対見た方がいいです。ぜひ期間中に足を運んで、彼のファンタジーの虜になって下さい。誰もが不思議な気持ちになれるはずです。
以上、ファンタジスタ歌磨呂リポートでした。
Exhibition Information

ヘンリー・ダーガー展 〜アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く「非現実の王国で」
会期:2011年4月23日(土) ~5月15日(日)
11:00~20:00(最終日~18:00)
場所:ラフォーレミュージアム原宿
東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿6階
03-3475-0411
Artist Profile
ヘンリー・ダーガー
1892-1973。アメリカ、イリノイ州シカゴ生まれ。4歳になる直前で母親と死別し、8歳で児童養護施設へ収容。12歳のときに劣悪な環境の精神薄弱児収容施設へ移送されるが、17歳で脱走。シカゴの病院で清掃人として働く傍ら、誰に知られることなく、60年もの長きにわたり私的小説『非現実の王国で』を著述。7人の美少女姉妹が、子供を奴隷として虐待する暴虐非道な男たちを相手に壮絶な戦いを繰り広げるという物語を延々と綴った。そのボリュームは15,000ページを超え、挿絵は数百枚におよぶ。当時の下宿先の大家夫妻によって偶然発見された。
ファンタジスタ歌磨呂
1979 年生まれ。フリーランス。イラストレーター、テキスタイルデザイナー、グラフィックデザイナー、アニメーションディレクター。マンガ創作集団「mashcomix」メンバーとしても活動中。














