
Chim↑Pom「SURVIVAL DANCE」「K-I-S-S-I-N-G」レポート
大胆さを持ち味に、誰も成し得ない方法でメッセージ性の強い作品を制作してきたアート集団・Chim↑Pomによる個展「SURVIVAL DANCE」と「K-I-S-S-I-N-G」が都内2会場で同時開催された。刺激的な作品を取り揃え、ギャラリーの屋根裏一面をディスコのような空間に変貌させた「SURVIVAL DANCE」、たった2つの電球をモチーフに、愛情や同情を乞う人間の寂しさや不安に焦点をあてた「K-I-S-S-I-N-G」。両展示とも東日本大震災に言及しており、「今」だからこそ実感できるリアルな感情が露呈した展示となっていた。
Text&Photo:北川夏希
SURVIVAL DANCE at 無人島プロダクション
昨年から開催が決まっていたという本展示は、3月11日の震災を受け、予定されていた内容を大幅に変更したという。震災のみならず、原爆投下という歴史的悲劇にも焦点をあて、大きな悲しみや不安につつまれた厳しい状況のなかでどう生きるのかについてのChim↑Pomなりのビジョンを提示している。
取材当日はChim↑Pomリーダーの卯城さんにお越しいただき、展示のテーマや作品に対する思いについて話を聞くことができた。

会場となるのは清澄白河駅から徒歩5分の無人島プロダクション。映像作品から鳴り響く銃声が、解放された入口から漏れ出ている。

展示スペース全体の壁は、「ピースが崩れた」というひとつの作品。壁面からパズルのピースが剥がれ落ち、床に積み重なっている。中央奥の男性の前に展示されているのは、原爆の残り火「平和の火」。
会場に入ってまず目に入るのが、壁一面に広がる「平和の火を用いた絵画シリーズ」。一軒のスーパーマーケットで集めた、パッケージなどのデザインから拾い上げた動物や植物など森羅万象のモチーフが、板にプロジェクション、トレースしたものが「平和の火」で焼き上げられている。「原爆は森羅万象を一発で焼き尽くしてしまった。でも、戦後の社会にあふれた多くのものは、まさに原爆の一投から産み出されたと言ってもいいと思うんです」と卯城さんは語る。スーパーの商品のパッケージに森羅万象を見出すという発想は斬新だが、それらを原爆の残り火で焼き上げることによって、森羅万象の終焉と誕生という二項が同時に焼け跡として浮かび上がってきたような作品となっている。

「平和の火を用いた絵画シリーズ」
「平和の火」の提供元である埼玉・原爆の図・丸木美術館にて今年12月に開かれる個展に向けて制作されており、最終的にはこの5倍から10倍の数になる予定だそう。手前はChim↑Pomのリーダー、卯城さん。

近付いて見ると、すすの質感が生っぽく、切迫したものを感じる。

「BACK TO THE FUTURE」(2011) ( c )2011 Chim↑Pom , Courtesy of Mujin-to Production,Tokyo
燃え上がる火によってハリウッド映画「BACK TO THE FUTURE」のタイトル文字が浮かび上がる映像作品。「原爆は未来と直結した過去の悲劇であり、現在の日本の形成に大きな影響を及ぼしている」と、過去・現在・未来を地続きのものとして捉える卯城さん。さらには「東京・広島・福島・アメリカなどの空間や、過去や未来や今といった時間、それら全ての時空は超シンプルにゆがんでいる。その接点にこそ本質があって、時間や空間をバラバラにとらえていては今の被爆の問題の本質は見えてこない」と語る。この作品も「平和の火を用いた絵画シリーズ」と併せて、丸木美術館での個展で完成品が展示される予定だ。
「Destiny Child」「Invisible Wall」のふたつの作品はともに制限のある社会のなかで自らの居場所や遊びを開拓しようとする人間の姿が描かれている。「管理社会のなかでオリジナルに生きることを実践した作品」と卯城さんは言う。ちなみに「Invisible Wall」の舞台となった渋谷警察署は、JR渋谷駅の岡本太郎の壁画「明日の神話」に福島原発の絵を接続するというプロジェクト「LEVEL7 feat.明日の神話」に関してChim↑Pomメンバーが実際に出頭した場所だ。

「Destiny Child」
放射線によって立ち入り禁止になった福島の公園にて、防護服と防護マスク、防護メガネを着用した子供が砂場で遊ぶ姿をサンドアートにして放置。遊びなれた公園で遊べなくなった子供たちの、サバイブする姿が映し出される。

「Invisible Wall」
ボディペイントによって身体を壁面に溶け込ませて「合法な壁」を作り、そこにピースマークのグラフィティを刻み込む。グラフィティを巡る「合法・非合法」の問題に対して、身体での解決を試みた作品。

カッターナイフで背中に刻まれたというピースマークのグラフィティは、血液で赤く染まっている。

屋根裏にも展示があり、はしごを登って上を覗くことができる。

「スーパーラット」
ミラーボールに4つ打ちのダンサブルな音楽が響く、ディスコのような空間。随所に設置されたモニターには、東京のラットたちの日常を捉えた映像が流れており、放置されたスパゲティに群がる姿やじゃれ合っている姿が映し出される。

Chim↑Pomの代表作とも言える、ピカチュウに模したラットの剥製「スーパーラット」は、今回の個展の軸となった作品。2006年に催された初個展「スーパー☆ラット」でも渋谷の街でラットの捕獲に挑んだ彼らだが、それから5年経った今回の捕獲作戦では、当時通用していた捕獲方法がまったく通用しなくなっていたのだという。進化を止めないそんな野性的な生き方にシンパシーを感じた彼ら。「野生の生き物として、こういう状況のなかでどう楽しむか、どう強く生きていくかっていうのが大事でしょ」と卯城さんは言う。
厳しい現実のなかでも自ら場所を開拓し、そこで明るくたくましく生きていくということ。スーパーラットを「3.11以降の生き方の指針」だという彼らの展示「SURVIVAL DANCE」は、暮らしに順応しすぎた人間の「野生の力」を掻き立てる、力に満ちたものとなっていた。
K-I-S-S-I-N-G at The Container
震災以降に人々が感じている「不安」や「寂しさ」をテーマにしたという展示「K-I-S-S-I-N-G」。メインとなる作品「Kiss 」は、男女2体の電球が互いに求め合い、彷徨う姿が節電にかけて映し出された映像作品だ。メロディアスな音楽とともに暗闇を舞う2体の白い電球。仕舞には激しくキスをすることで衝突し、小さく燃えながら砕け散るその姿は、併せて展示された薄いガラスの破片と相まって、その脆さを象徴している。

会場は中目黒のヘアサロン・Bross内に設置されているThe Container。サロンの半分程のスペースに大胆に設置されたコンテナの中は、5人も入れば満員になってしまう。

「Kiss」
男女の顔の描かれたふたつの電球がキスして、衝突し、割れ、最後には真っ暗になるという映像作品。

映像の手前には、割れた2つの電球の破片が展示されている。フィラメント部分は最後の息のようにゆっくりと点滅を繰り返す。

(手前)「King & Queen」
十字架にかけられた等身大のキリスト像に寄りかかり、キスするのはChim↑Pomのエリイ。
温もりに対する欲望や、愛情や同情、心の拠り所を渇望する不安な気持ち。ピンクの照明に照らされたコンテナの中で、ただひたすらに温もりを求めあう男女。ニュースで放送される福島原発事故の様子を肩を寄せ合いながら見る、電球ふたりが主人公の4コマの簡略な絵も展示されており、全作品を通して、震災以降の不安に包まれた暮らしのなかで愛を求めて衝突しあう人間の弱さ、素晴らしさ、ある種の愚かさを見せつけられた気がした。本展示「K-I-S-S-I-N-G」は12月19日まで開催中だ。
「SURVIVAL DANCE」では大胆に、「K-I-S-S-I-N-G」では繊細に、3月11日の震災や広島への原爆投下など実にリスキーでデリケートな問題を作品に昇華させたChim↑Pom。いつも私たちが生きる世界のタブーぎりぎりのところを掴み去り、目が覚めるような見せ方をしてくれる彼らの「現在」のビジョンは、過去への反省やリスペクトを含みつつ、同時に未来に対する欲動で溢れていた。
Exhibition Information
「SURVIVAL DANCE」
会期:2011年9月24日(土)~10月15日(土)
会場:無人島プロダクション

「K-I-S-S-I-N-G」
会期:2011年9月26日(月)~12月19日(月)
会場:The Container (Bross hair salon内)













