
「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」レポート
東京を拠点に独創的な活躍をみせる10のファッションブランドが、本展のために設計された空間で「ファッションとは何か?」というシンプルな問いへの回答を示す展覧会「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」が東京オペラシティアートギャラリーで開催されている。女性にとっての「かわいい」を追求するケイスケカンダ(神田恵介)、日本の伝統的な美を再考する「まとふ」(堀畑裕之・関口真希子)、今年のヨコトリ関連企画「港のスペクタクル」でも話題を呼んだシアタープロダクツ(武内昭・中西妙佳・金森香)などファッション以外の分野でも頻繁に名前を目にする彼らが考える現代に沿った「ファッション」のあり方とは?
Text:和田真文
会場構成を手掛けた建築家の中村竜二は、間仕切りを作らず観客の目線くらいの高さの白い梁を会場全体に巡らせることで、ブランドごとの関係性が重なり合い、影響し合うような空間を作った。順路を決めず、好きな場所から見始められるようにしているのも特徴のひとつだ。各ブランドの服を一勢に同じマネキンに着せ陳列する従来のファッション展の形式に縛られず、梁で繋がる四角い区画の中にそれぞれが考える「ファッションとは何か?」を思い思いにあらわすことに重きが置かれている。

ANREALAGE 撮影:石垣星児(BLOCKBUSTER)
基準の問い直しをテーマにした2010-2011 A/Wコレクション「wideshortslimlong」から、横に伸びたマネキン「ワイドショート」と縦に伸びたマネキン「スリムロング」を並べて展示した。見ているだけでは信じられないが両方の容量は同じで、どちらも同じように普通に着ることができる。

ミナ・ペルホネン 撮影:木奥恵三
テキスタイルを重視し、生地そのものの良さを発信し続ける「ミナ・ペルホネン」は、コートをアクリルケースに入れた状態で吊るし、それらのテキスタイルが完成するまでの過程を写したモノクロ写真を順々に配置した。
きれいになりたい、美しくなりたいと願うのはファッションに対する欲望のひとつだと思うが、この観点から対照的に映ったのは、ソマルタとまとふの展示だ。ソマルタは、ブランド創立以来取り組んでいる「無縫製ニット」の魅力を押し出す展示を行った。マネキンに無縫製ニットで編んだレースを着せると共に、天井から吊り下がる白い植物のような球体をレースで包む。どこから見ても切れ目がわからないレースからは繊細さ共に生々しいエロティックさも漂い、高度な技術がもたらす美を体感することができる。一方、日本の伝統的な織物技術を現代に沿うデザインに応用し、美しさを追求する「まとふ」は、2011-12 A/Wのテーマ「無地の美」から発想したインスタレーションを展示している。苔や小石にも様々な陰影があるように、無地といっても幅広く繊細な広がりを持つことを静かに伝えている。温かな息遣いや気配といった、人間が生まれ持つ佇まいに美しさを感じさせる内容となっていた。


(左)ソマルタ 梁の向こうに見え隠れするh.NAOTOの展示とあいまってSF小説の中に入り込んだような錯覚に陥る。(右)まとふ 木のチップを踏みしめながら天井から吊り下げられた白いカーテンでできた小道を歩く。道の先には、日本の庭を思わせる苔のむした岩が配置されていた。 (左)、(右)ともに 撮影:木奥恵三
クスッと笑みを浮かべてしまうユーモアあふれる発想と視点を与えていたのは、ミントデザインズとサスクワァッチファブリックスの展示だ。


(左)ミントデザインズ 2008-09 A/Wコレクションから「TRASH, SLASH, and FLASH !」のインスタレーションを発展させ、10年間のアーカイヴから選んだ代表的な作品を展示。マネキンの足下にはシュレッダーにかけた古い雑誌を敷き詰めている。ゴミだったとは思えないほどカラフルで洒落た故紙の量に目を奪われる。(右)サスクワァッチファブリックス 鳴き声が聞こえてきそうな馬。よく見ると、革で出来たショートパンツなどの古着を解体し、集めて貼り合わせていることがわかる。 (左)、(右)ともに撮影:木奥恵三
本展の中で最も異彩を放っていたのは、h.NAOTOの展示。ゴスロリパンクのデザインがビジュアル系やオタクから大きな支持を受けるブランドだ。30体のマネキンをチェーンで吊り下げ、額縁に入れたコレクション写真を壁面に敷き詰める。天井の高さを利用し、会場を屋敷か城にでも見立てたような独特の暗さとキッチュさを醸し出していた。

h.NAOTO 撮影:木奥恵三

ケイスケカンダ 撮影:木奥恵三
四畳半の和室で洋服を描くプレゼンテーション。畳から小物にいたるまでニットやレースを型取りした樹脂で制作されている。会場の通路には各ブランドのコレクション映像やスチルが展示されている。その中で、コレクション映像ではなくこのブランドについての感想や印象を語る人々の姿を流していたのも印象的だった。
ストーリーを楽しむという意味では、シアタープロダクツとリトゥンアフターワーズの展示が目を惹いた。インタラクティヴな展示を行っていたのはシアタープロダクツ。ショップのような小屋に、タグが付いた商品が並ぶ。服や小物にはバーコードが付いており、小屋に設置されたバーコードリーダーを使って読み取ると、セーターやシャツ、ケープなど一つひとつ異なる軽快な音楽が流れ出す。リトゥンアフターワーズは、一見するとファンタジックなストーリー性の中に、ファッションに付いて回る制度や体制に批評的に目を向けた展示を行った。

シアター・プロダクツ「La Boutique fantasque」 撮影:木奥恵三
ラックに吊り下げられたケープやセーターなどに付いたタグをバーコードリーダーで読み取り音を楽しむ、遊び心満載の展示。

リトゥンアフターワーズ 撮影:木奥恵三
観客は壁に空けられた小さな覗き穴や窓からその中に目を凝らす。中ではライオンやリスなどの動物たちが新しい紙幣(0リトゥン)を織る作業中。ファッションが即、資本主義と結びつくイメージを打ち捨て、今後、本当に必要とされるものを見据え新しい時代の中にファッションを位置付けようとする気概が伝わる。
売り物としてではなくアートとしてファッションを展示する場合、観客の側にも多少の視点の切り替えが必要とされる。だが今回に関しては、私個人としてはそれほど違和感を覚えず観て回ることができた。それは店に立ち寄ったときの感覚や、雑誌に登場する彼らの活動やことばの延長線として展示を受け入れることができる点にあるのではないかと思う。もちろん店に行ったときと同じように服を手にとることができるわけではないし、買い物感覚で楽しめる展示だという意味ではない。彼らは、ブランドを商業的にも軌道に乗せながらも、現行のファッションのサイクルやシステムとはうまく距離を置く柔軟さを備えるという特徴を持っている。コムデギャルソンやイッセイミヤケ、ヨウジヤマモトら先達のブランドが私たちに向けるメッセージと比べると静かで穏やかではあるが、ここに登場するデザイナーたちは、自分たちが何を大事にし、どのように「ファッション」を捉えているかということを普段から自らの言葉として伝える手だてを持ち、スタイルを浸透させることに成功している。最新のコレクションを見ることができなくても、ビジュアライズされたデザイナーの生のことばに触れることができたという満足感に包まれる展示内容だった。
感じる服 考える服:東京ファッションの現在形
日時:2011年10月18日(火)〜12月25日(日)
時間:11:00-19:00
※金・土は11:00-20:00、最終入場は閉館30分前まで。
会場:東京オペラシティアートギャラリー
参加デザイナー:アンリアレイジ(森永邦彦)、h. NAOTO(廣岡直人)、ケイスケカンダ(神田恵介)、まとふ(堀畑裕之・関口真希子)、ミナ ペルホネン(皆川 明)、ミントデザインズ(勝井北斗・八木奈央)、サスクワァッチファブリックス(横山大介・荒木克記)、ソマルタ(廣川玉枝)、シアタープロダクツ(武内昭・中西妙佳・金森香)、リトゥンアフターワーズ(山縣良和)














